クイック エンジニアリングブログ

株式会社クイック Web事業企画開発本部のエンジニアリングチームが運営する技術ブログです。

コピーライティングとは本当に「ラブレターを書くこと」なのか?

こんにちは。 2課デザインチームでコピーライター兼デザイナーをやっております、ケイと申します。

いかにもラブレターが入っていそうな学校の下駄箱

先日、ついに完結を迎えたエヴァンゲリオン新劇場版シリーズ。 第2作目の『破』にこんなシーンがあるのですが、ご存じでしょうか?

転校してきて間もない式波・アスカ・ラングレーが学校の下駄箱を開けたとたん、大量のラブレターがなだれ落ちてくる。

平穏な日常を描いた何気ないシーンなのですが、ぼくは劇場で戦慄が走りました。 シンエヴァの予習がてらDVDで見返したときも、やっぱり背中が寒くなりました。

「大量のコピーがスパム扱いされている…」

古今東西、コピーはラブレターによく例えられてきました。

20世紀後半には、テレビ・新聞・ラジオ・交通広告を中心に活躍してきたコピーライターの大御所たちが「広告はラブレターである」と説き、 2000年代には、セールスコピーライターが「ラブレター理論」というテクニックとして、コピーライティングをラブレターに例えていました。

広告とは、商品と消費者をつなぐもの。 コトバの力で相手を振り向かせるわけですから、例え話としてはとてもわかりやすいですね。

ぼくも若かった頃は「お客さんにラブレターを書くつもりで良いコピーを考えるぞ」と肝に銘じていましたし、社内向けのコピーライティング講座みたいなものでも、「コピーってラブレターなんだよ」と伝えておりました。

でも。 心を込めて書かれたはずの珠玉のラブレターが、アスカの前ではスパムメールと化している!

なぜ、ラブレター=コピーは大量死してしまったのか? 「コピーはラブレター」というコトバを信じてきた人間としては、この問題の真相を考えずにはいられませんでした。

ラブレターの大量死

ラブレターは書き手本位になりやすい

アスカの元に大量のラブレターが押し寄せたのは、彼女が転校してきて間もないタイミングでのことでした。 それまで海外で過ごしてきた彼女のことを、あの学校に深く理解する人間がいたとは思えません。

そんな中、ラブレターは手紙なので、面と向かって話すより、素直に大胆に自分の気持ちを言葉にすることができます。 小綺麗な白い封筒に入れて、相手の下駄箱にしのばせておけば、相手の答えを目の前でドキドキ待つ必要もありません。

面と向かって言えないことを好きなだけ書ききって、あとは祈る思いで下駄箱にそっと入れるだけ。

好きな人がその手紙を読んでどんな表情をしたのか、下駄箱を開けて封筒を見た瞬間の気持ちはどうだったのか。 自分の書いたラブレターがアスカに読まれたのかどうか、最後まで見届けた者が果たして何人いたのでしょうか。

一方的に思いをつづり、祈るように下駄箱へ投函。 あとは自分からは何もせず、相手から返事が来るのをただ待つばかり。

…あれ、なんだかラブレターって、すごく書き手本位では…?

広告もラブレターも、書き手本意だから刺さらない。

個人的な所感ですが、広告制作は、ある意味、自分本位との戦いでもあります。 表現という行為自体とても主観的であるにも関わらず、 届けたい相手に寄り添い、徹底的に主観を排除してこそ、刺さる広告が作れます。

今や、「広告はラブレター」と言われ始めた昭和の時代とは比較にならないほど、 世の中にはモノや情報があふれています。 電車内で、中吊り広告とデジタルサイネージスマホが乗客の目を奪い合っているように、広告の種類と数は驚くほどに増え、コミュニケーションのあり方も多様化しました。

それは、裏返すと、ラブレターのなだれのように、 ひとつひとつの広告がユーザーに無視される可能性も増えている、ということ。

ユーザーのインサイトもレスポンスも正確な分析が可能な今、 コピーライターの「書き手本位」は広告の死を招きます。

こんな時代だからこそ、「コピーはラブレター」というコトバの先を強く意識する必要があるのではないでしょうか?

つまるところ、 絶対にフラれたくない相手に確実に届いて、 確実に刺さる、気持ちの伝え方とは何なのか。

「ラブレターを書く」のその先へ

とことん相手に目を向けて、相手の心を想像し、 相手がYesと言いたくなる内容を実現するために、 できることはないだろうかと思考する。

「下駄箱」よりももっと競合優位性が高く、 相手が周囲の目を気にしなくてすむシチュエーションがないだろうか。

封筒だって、もっと相手に相応しいデザインや配色があるかもしれない。 捨てられない、大事に扱いたくなる、つい中を開けたくなる… 工夫の余地はいくらでもあるのです。

もしかしたら、ラブレターではなく、直接相手に声をかけた方がいいかもしれない。 先にLINEを聞いて、メッセージの往復で関係性をあたためていくべきかもしれない。

ロマンチックじゃないかもしれないけれど、コピーで相手の心を動かしてYesを引き出す役割は、恋い焦がれた純朴な少年より、策をめぐらす策略家の方が向いています。

これからコピーライティングを学ぶ人たちには、 そんな「良い意味での計算高さ」を大切にしてほしいから、 ぼくは、社内の勉強会で「コピーはラブレターだ」ということをやめました。

そもそもクイックのWeb事業企画開発室は、自社の集客を手がけるインハウス部隊です。

広告の中身だけでなく、どんな媒体でどんなキャンペーンを展開するか、 広告と連動してどんなことを仕掛けていくか… 目的の達成のためにコミュニケーションシナリオ全体を設計できる裁量が、 我々コピーライターにはあるのですから。

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